レコーディング・エンジニア 杉山勇司氏 が語る

CHORD Hugo 2/2go インタビュー
 
英国のChord Electronicsが、長年に渡ってハイエンドオーディオの領域で培ってきた豊かな経験と技術を惜しげもなく注ぎ込んだUSB-DAC内蔵ヘッドホンアンプ「Hugo 2」が発売から3年を迎えた。多くのポータブルオーディオファンにとってHugo 2は今もなお垂涎の的だ。その魅力は色あせるどころか、新たにネットワークオーディオ機能を追加する専用アクセサリー「2go」が誕生したことでまた一段と輝きを増した。
 
今回はレコーディング・エンジニア、サウンドプロデューサーとして数多くの音楽作品を手がける杉山勇司氏を訪ねて、自身もユーザーとして使いこなすHugo 2と2goの上手な活用術を聞いた。杉山氏はふたつのコンポーネントのどこに強く惹かれているのだろうか。

 

はじまりは初代Hugoとの出会い

 
杉山氏はプロフェッショナル向けの機材を集めたモニタリング環境以外にも、一般のリスナーが家庭で使うホームオーディオにより、自身が制作に携わる作品がどのように聴こえるのかを確認したり、あるいはシンプルに好きな音楽を楽しむためのリスニング兼リファレンスシステムの導入を検討していた頃に初代Hugoと出会った。

それまではミックスダウン後の音源や、配信サイト等でダウンロード購入した音楽作品のファイルは複数のUSBストレージに分けて保存・管理しながら、MacBook Proと音楽プレーヤーソフト「Audirvana」の組み合わせで再生していた。

HugoはUSB-DACとしてMacBook ProとUSBケーブルでつなぎ、ヤマハのアクティブスピーカー「NX-A01」で鳴らすシステムを組んだ。「Hugoには音量設定のレジューム機能があるので、電源を再投入した後にはいつものリファレンスのセッティングにすぐ復帰できるところが気に入っています」という杉山氏。ワークスペースがコンパクトに構成できるところも魅力に感じているそうだ。

 

やがてHugo 2でふたつめのリファレンス環境を組んだ


続いて発売されたHugo 2にも杉山氏はすぐさま興味を惹かれた。Hugo 2を導入後、最初はアナログ音声出力をVECLOSのニアフィールド・アクティブスピーカー「MSA-380S」に直結して、持ち運びながら使えるポータブルリファレンスシステムとして活躍の場を与えた。
 
「ライブコンサートのレコーディング現場等で自分専用のモニタリングシステムとして試しました。Hugo 2は複数のデジタル入力を搭載しています。コンサートの中継ではデジタルコンソールを使うことが多いのですが、そのデジタルアウトを直接Hugo 2に入力してモニターします。その際コンソールのメインモニターと自身のモニターをリモコンを使ってソースを素早く切り換えられる機能がとても便利で、使い倒していました。」(杉山氏)
 
しばらく経ってから、やはりHugo 2は自宅スタジオのリスニング兼リファレンスシステムとしても使いたいと思い立った杉山氏は、Hugo 2を中心とした据え置き使用のための環境を順次整えていった。
 
スピーカーにはVECLOSのMSA-380Sをそのまま使いながら、当初はHugo 2の光デジタル入力にAstell&Kernのハイレゾプレーヤー「A&ultima SP2000/SP1000」を接続して、それぞれのプレーヤーに保存されている音源を中心に聴いていた。
 
そして2020年春に発売されたCHORDの「2go」を環境に加えたことが契機になり、杉山氏のネットワークオーディオへの情熱に火が点いた。

 

Chordのシステムによるネットワークオーディオ再生に夢中になる

 
杉山氏は自宅スタジオに10Gbps対応の高速光回線を引いていたため、これをHugo 2と2goのためフルに活用することを考えた。Wi-Fiルーターを最新仕様のものに入れ替えて、MacBook Proにイーサーネットケーブルを接続できるようにThunderbolt/10ギガビットEthernetアダプタも買い足した。機材を揃えるため久しぶりに秋葉原に通い詰めたのだと、杉山氏は口元に笑みを浮かべながら楽しそうに話す。
最初は2goをワイヤレス接続でシステムに繋いでみた。続いて2goが搭載するギガビット対応のイーサーネット端子と使用感を比べてみたところ、有線接続の方が安定したスピードが出せることに気付き、以来杉山氏は主に2goを有線接続で使っているそうだ。

iPad Proには「8 Player」アプリを入れてDLNA/UPnP再生のDMC(デジタル・メディア・コントローラー)として、さらに2goをDMR(デジタル・メディア・レンダラー)に位置付ける。2goにはmicroSDカードスロットも搭載されており、メディアを装着するとDMS(デジタル・メディア・サーバー)として使えることを知りつつ、杉山氏はASUSTORから発売されているSSD対応のNASをメディアサーバーとして活用する道を選んだ。大量の音源ファイルをNASで一元管理しながら聴くスタイルが馴染んだからだという。
 
2goを導入するまではあまり関心を向けていなかったAirPlay再生も、今では活躍する頻度が格段に高まった。iPad ProやMacBook Pro、iPhoneなどプレーヤー機器を速やかにスイッチしながら、AirPlayでデータを飛ばす出力先に2goを指定して聴ける快適さは杉山氏の期待を超えていた。

一点AirPlay再生の課題は、出力フォーマットが最大48KHz/16bitに限られるため、ハイレゾ音源を聴く場面では引き続きHugo 2の光デジタル入力につないだAstell&Kernのハイレゾプレーヤーを活用している。そしてここでもまた、入力ソースをボタンひとつで切り替えられるHugo 2のリモコンが活躍している。「これはとても便利なアクセサリーですよ」と杉山氏が太鼓判を押す。

 

音楽制作のプロが勧める「Hugo 2/2goの上手な活用術」


昨今音楽制作に携わるエンジニアの間でもクラウドやネットワーク通信を活かしたリモートワークの可能性に関心の目が向いているという。杉山氏が感じているそのメリットについて、こう語っている。
 
「海外に住む仕事仲間たちが録音・ミックスダウンした音源を確認のため送り合う場面でも、10ギガビット対応の通信速度を安定してたたき出せるワークスペースを導入したおかげで仕事がとてもはかどっています。ファイルサイズの大きな音源のダウンロードに必要な時間が今までの約4分の1以下に短縮されました。」(杉山氏)
 
通信環境のボトルネックが解消されたことで、音源を送信する前段のダウンコンバートに要する手間が省けて、しかも音質の劣化に妥協する必要がなくなった。送られてきたファイルはiPhoneやiPad Proなどで受け取ってから、取り急ぎHugo 2/2goのセットにAirPlayで送り出して内容をチェックしたり、NASに保存してから入念に聴き込むといったワークフローの広がりが生まれたことも杉山氏にとって大きな収穫だという。

 

こんな機能も欲しい。杉山氏がHugo 2/2goの進化に期待するポイント


杉山氏はNASであらゆる音源を一元管理できるネットワークオーディオ再生環境を整えて以後、これまで以上に音楽を聴く機会が増えたと嬉しそうに語っていた。
 
CHORDの製品は初めて据え置きタイプのHi-Fiコンポーネントの音に触れてから、杉山氏はずっと信頼を寄せているという。「CHORD製品のサウンドはむやみな色付けがなく、安心して楽しく聴けるバランス感覚が魅力だから」と杉山氏が話す。自身が手がけた作品を再生してみても、オーディオが過度な演色を加えることがなく、作品の魅力を丁寧に引き出してくれる安心感があるのだという。
 
今お気に入りのHugo 2/2goのシステムに、あえて注文を付けるとしたらどんなところだろうか。杉山氏に質問をぶつけてみた。

 

「今はネットワーク再生に8 Playerアプリを使っていますが、これよりもユーザーインターフェースが洗練されたCHORDオリジナルのプレーヤーアプリがほしいですね。ボリュームやフィルターなど本体のステータスは、慣れるとイルミネーションの点灯色で判別できるのですが、2goのセットアップなどに使うGofigureアプリから詳しいステータスが見られるようにもなると便利だと思います。」(杉山氏)
 
CHORDのHugo 2と2goに出会い、ネットワークオーディオの面白さとオンラインワークの豊かな可能性を発見できたという杉山氏は「Wifi機器が増えた今、回線品質に音質が影響されることがあるので、Hugo 2の高音質を活かすためにも2goは有線接続で使うことをおすすめしたい」と呼びかけた。

インタビューを終えた後、杉山氏は「やっぱりイーサーネットケーブルを変えると音も変わるのだろうな」と、一言小さくつぶやいた。この次にお会いした時には、杉山氏が愛用するCHORDのコンポーネントまわりがどんなふうに進化しているのだろうか。ぜひまた詳しく聞いてみたいと思う。

 

プロフィール

 

レコーディング・エンジニア
杉山 勇司

1964年生まれ、大阪出身。1988年、SRエンジニアからキャリアをスタート。くじら、原マスミ、近田春夫&ビブラストーン、東京スカパラダイスオーケストラなどを担当。その後レコーディング・エンジニア、サウンド・プロデューサーとして多数のアーティストを手がける。主な担当アーティストは、ソフト・バレエ、ナーヴ・カッツェ、東京スカパラダイスオーケストラ、Schaft、Pizzicato Five、藤原ヒロシ、UA、X JAPAN、L’Arc~en~Ciel、LUNA SEA、Jungle Smile、広瀬香美、Core of Soul、cloudchair、Cube Juice、櫻井敦司、dropz、睡蓮、堀江由衣、寺島拓篤、清竜人、花澤香菜、YOSHIKI、河村隆一など。また、書籍『レコーディング/ミキシングの全知識』 ( リットーミュージック)を執筆。2017年には同書の中国語簡体字翻訳版(湖南文艺出版社刊)、2020年に繁体字版が出版された。


Photo by 小原浩紀

 

オーディオ・ビジュアルライター
山本 敦
 
オーディオ・ビジュアル誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。ハイレゾに音楽配信、スマホなどポータブルオーディオの最先端を徹底探求。海外の展示会取材やメーカー開発者へのインタビューなども数多くこなす。

 


 
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