DITA Answer Truth 試聴記

「とてもいいイヤホンがあるので、聴いてみませんか」。そんな誘いに乗って、DITA Answer Truth をお借りすることになった。近年、高級イヤホン市場が活況を呈しているのだとか。どれほどのクォリティの音を聴けるのか、大いに興味を持って試聴させてもらった。
まず先に申し上げておくと、筆者の守備範囲はクラシックのみ。普段はオーケストラ、ピアノ、室内楽、オペラ等々、ライブで音楽を聴くことが多く、オーディオのディープな世界とは縁遠い。むしろオーディオ業界で当然とされているような事柄にもいちいち「それって本当かなあ?」と疑問を抱かずにはいられない性分だ。おそらく日常的にはオーディオ機器に向かって集中して音楽を聴いている時間よりも、コンサートホールで生演奏を聴いている時間のほうが長いと思う。オーディオ機器で聴く場合は、オープンエア型のヘッドホンを好んで用いる。CDプレーヤーも使用するが、最近はPCからUSB-DAC/ヘッドホンアンプ経由で音楽を聴く機会が格段に増えてきた。

では、オーディオ業界外の人間の気楽さで、以下に試聴記を書かせていただこう。
まずはオーケストラから、さまざまな編成の曲を選んでみた。ストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」(グスタボ・ドゥダメル指揮LAフィル)、R・シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」(パーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団)、ブルックナーの交響曲第3番(ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ交響楽団)、それから最近インターネットでハイレゾ音声配信を開始したベルリン・フィルのデジタル・コンサート・ホールを利用して、サイモン・ラトル指揮によるシューマンの交響曲第1番「春」から、適宜ポイントをピックアップして聴いてみた。
共通して感じるのは、中低音域の豊かさと精細さだろうか。「火の鳥」では「魔王カスチェイの踊り」を聴いてみたが、バスドラムのズシンという響きがしっかりと伝わってくる。オーケストラ全体の強奏時の切れ味は鋭い。一方で、高音域の華やかさも十分で、全体のバランスはよく取れている。また、ブルックナーの交響曲第3番では第2楽章冒頭の弦楽合奏部分に注目してみたが、分解能が高く、各パートの動きが一段階明瞭に聞こえるように感じられる。第4楽章のブラス・セクションは輝かしく、しかし決して刺々しくはない。
どちらかといえば、コンサートホールの空間的な広がりが伝わってくるというよりは、音像に近接したポイントに寄った高解像度の音を聴かせてくれるという感触を受けた。
ベルリン・フィルのハイレゾ配信では、オーケストラの分解能の高いサウンドが生々しく伝わってきた。なんと高度なアンサンブル能力を持ったオーケストラなのだろうか。自宅にいながらにしてこれだけ楽しめるのなら、演奏会場に足を運ばなくてもかなりのところまで満足できてしまうのかも……と、つい思わなくもない。

次に、小さめのオーケストラということで、モーツァルトの交響曲第38番「プラハ」(ルネ・ヤーコプス指揮フライブルク・バロック・オーケストラ)を聴くことに。こちらは大編成のオーケストラ以上の臨場感を感じる。低域にしっかりとした芯があるため、より間近で聴いているという印象を受ける。
続いて、今度はもっとも小さな編成をということで、ブリテンの無伴奏チェロ組曲第1番(ジャン=ギアン・ケラス)を選んでみた。楽器はチェロ一本のみ。やはり中低音域の豊潤さを感じる。張りのあるつややかな音色が雄弁で、情報量が多い。客席で聴くというよりも、舞台上、あるいは舞台上方の空間で聴く感覚になる。
ピアノのソロでは、ユジャ・ワンのスカルラッティのソナタ ホ長調K.380とストラヴィンスキー「ペトルーシュカからの3章」と、曲想の対照的な作品を聴いてみた。それぞれの抒情性、敏捷性を過不足なく味わえる。実際のリサイタルではまずこんなに「近寄った」音像を聴くことはできないのだから、再生芸術の本領発揮といったところである。

比較的新しい録音を中心に、あれこれと思いつくままにタイプの違った音源を聴いてみたが、このイヤホンが自分にとって音楽を聴く喜びを存分に提供してくれるものであることはまちがいない。もちろん、その性能を十分に発揮するためには、音源の出力側の環境も問われるところだろう。機会があれば、ヘッドホンアンプ等との相性も試してみたくなる。再生装置に「どこまでの音を求めるか」という根本を改めて考えるよい機会を与えてもらった気分である。


 

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