粋な“純A級”のおおらかさ

BURSON AUDIO製品における一つのキーワードが“本物”へのこだわりだ。ヘッドホンアンプについても出力部にオペアンプではない、ディスクリート構成に重きを置き、基礎体力の源となる電源部もリニア方式を取り入れている。本機の前身となるSoloistは、音声信号が通過するパーツは最小限かつ高音質なものを用いるショートシグナルパスにこだわり、フルディスクリート・純A級出力段に加え、抵抗切り替え式アッテネーターをも投入したモデルだった。

このSoloist SLも同じ回路設計を踏襲し、フルディスクリート・純A級出力段を採用。ELNA製コンデンサーやDELE製抵抗を導入したほか、電源部にも大容量のトロイダルコアカスタムトランスやノイズを徹底的に除去し安定化を図る独自設計のレギュレーター回路を盛り込んだ。Soloistと大きく異なるのはシャーシや音量調整機構を簡略化している点だが、その一番の理由は同社のサウンドをより多くのリスナーに届けられるよう、工夫を凝らしたからなのである。
ボリュームはアルプス製27型の高品質タイプを採用。出力レベルを切り替えることであらゆるヘッドホンを駆動しきるVOS機構もポイントだが、これだけ本格的な構成のヘッドホンアンプが10万円以下であるというハイC/Pな点こそ、注目すべきことだ。

そのサウンドは非常におおらかで、高低とも伸び良い素直な音色である。ゼンハイザーHD800でも高域の粒立ちの滑らかさと音像の自然な密度感を得ることができ、低域もダンピング良い量感を確保。オーケストラの分解能も素晴らしい。ヴォーカルは締まり良く、リヴァーブ処理の細やかさも見通せるほどクリアである。弦楽器やピアノは澄み切った響きを軸とした艶良くウェットな傾向。AKシリーズなどのポータブル機を接続することで、普段から聴く楽曲に含まれていた情報量の多さ、空間性の高さに改めて気づくことだろう。しかし本機の真髄は据置型システムとの組み合わせである。圧倒的な物量の電源部がもたらすS/Nの高さや音場の奥行き、安定的な佇まいは据置型ならではの優位点だ。Soloist SLは様々なジャンルをストレートかつ抑揚良く表現し、ハイレゾ音源のもつ空気感や余韻の階調性もまた的確にトレース。まさにリファレンスとして通用する実力機であり、初めて手にする本格派ヘッドホンアンプとしても最適である。
 

シンプルな構成の中に、音楽が良く鳴るSoloist SL

オーディオの音を評価するのにはいろんなパラメーターがある。SN感がいいとか、分解能が高いとか、空間の見通しがパースペクティブとか。まとめると「性能」というククリで語れると思う。一方、まろやかな音とか、暖色系の色彩感とか、クールな音の温度感といった要素もオーディオには存在する。「感性領域の味」である。イヤホンやヘッドホンに、あるいはそれらを鳴らすヘッドホンアンプについてオーディオ的性能が大事なのはもちろんだが、感性領域の味を意識できるようになるといよいよオーディオ、そして音楽を聴くことが楽しくなってくる。そんな時に推薦できるヘッドホンアンプのひとつがSoloist SLだ。
バーソン・オーディオはオーストラリアのメーカーで、元々はオーディオ好きのひと達の集まりだった。その代表者がマーク・バーソン氏。欲しいものを自分たちで作っているうちに評判を呼び、メーカーになってしまったらしい。Soloist SLはパーツひとつひとつのクォリティにこだわった上ですべてディスクリートで構成。電源部も強力なものを持たせるなど、その出自を感じさせる出来だ。デザインも内容もシンプルだが、実際聴いてみると音がいいし音楽がよく鳴るので、これでいいのだと納得してしまう。

自分のリファレンスであるデノンAH-D600とシュアSE535SpecialEditionで聴いた総合的な音の印象を記しておこう。
50mm径の振動板を持つAH-D600の低域は駆動しにくく、甘い低音になりがちだがここをしっかりグリップするのがまず印象的。よくハイインピーダンスのものを鳴らせるのがヘッドホンアンプの指標のひとつとして語られるが、音量だけでなくその質を評価したい。分解能やSN感などの性能の良さも挙げたいが、是非リポートしておきたいのは感性領域の味だ。音楽の縦の線、グルーヴ感とかタイム感といったものがよく立つのだ。低域から高域まで音の立ち上がりが揃っている要素が大事なのは言うまでもないが、同時に音楽に近い感じ、リアルさが音楽を楽しむのに奏功している。冴えざえと響くクールな響きはクールなままに、温度感の高いものは高いなりにその演奏のグルーヴをよく聴かせてくれるのが実に楽しい。アキュレートでありつつ成熟した表現力をもったヘッドホンアンプとお伝えしておこう。
ページトップへ